2007年10月19日
俺はタンクマン4 『化け物編』

悪い夢だ。
こんなこと、現実であるわけがない。
ほら、夢じゃないか?
!?

目覚めると俺はゆりかごの上だった。
クッションは何かの液体でベトついている。
視点が合ってくると目の前を小さな虫がぶんぶん飛び回っている。
女の形をした虫。
ティンカーベルなんて可愛らしいモノじゃない。
その心根に邪悪な笑みをたたえた昆虫。
夢魔。
手で払うと2匹は逃げて行き、1匹は手の甲で潰れた。
身体のあちこちがひどく腫れ上がっていた。
鈍器で打たれたようだ。
喉が渇いたのでフラフラと起き上がって水を探す。
なんて臭いだ。
化学物質と得体の知れない生き物が溶け込む川。
川面に映る顔は化け物のそれだった。
俺の本当の顔。
醜い俺の顔。

ゴミ箱に身体をつっこみ食料を探す。
収穫はただのひとつもない。
突然、背後に大きな殺気を感じる。
たくさんの足音、鎖や荒い息づかい。
俺は迷うことなく川に飛び込んだ。
対岸の物陰に隠れ、様子をうかがう。
ヤツらだ。
屠ること、嬲ることを思い、狂喜する野獣たち。
内蔵がこれでもかと縮み上がる。
冷や汗は絶えなく流れ、近づく恐怖は大きくなるばかりだ。
目をつぶって集中するが、死を意識してしまう。
自虐的な笑い声でもあげれば楽になるのか?
ちがう。それは許されない。生きねばならない。
もう一度目をつぶる。
暗闇になる。
眉間の辺りにかすかな光を感じる事ができた。
一匹ずつなら何とかなるはずだ。
東の小さな国に影として生きる部族がいる。
気配を無機物に同調させるんだ。
戦闘という選択は化け物の本能だ。
闘うことこそ本懐だ。
命のやり取りのクレイジーな快楽は俺に6本の鋭い刃を呼ぶ。
臨戦態勢になり、その刹那、遠くで鳥の羽ばたく音が聞こえた。

『さぁ、来やがれ』
俺の体力はもう尽きようとしていた。
多勢に無勢だった。
涙も痛みも後悔もすべてミックスした叫び声は、驚くほど小さなうめき声となって消える。
走る。走る。
逃げる。逃げる。
胸が張り裂けそうだ。風船が割れるイメージが浮かぶ。
灰色の海が見えた。
助かった。
淡い希望は眼前で砕かれる。
厚いガラスに俺の行き先は阻まれた。
振り向き闘うことはできそうにない。
急ブレーキを利用して反転し...いや、曲芸師になるには遅い。
頭を両腕で覆い、丸めた身体のままガラスに突進する。
突き破って砕けたガラス片がキラキラ光って俺を傷つける。
意識が飛びそうになる。
泳ぎは得意じゃないみたいだ。
酸素がない。
掴むものすらない海中。
伸ばした手は海面に差す鈍い光を欲している。
落ちていく。深く。深く。さらに深く。
ここで旅を終えるのか。
背中が熱くなり鋼鉄のマシンが皮膚を破って血肉といっしょに飛び出した。
耳鳴りしそうなジェット音と不似合いなブブブブブという羽音。

火を噴いて俺は飛んでいた。
俺は生きているようだ。
飛ぶ感覚と生きている不思議さに安堵する。
安心は油断となった。
錆びた大きな看板にぶつかって落下した。
地面に足がついたのだから、今はそれでいい。

生への執着は死を凌駕する。
煤けたような曇る空に俺はふたつの名前を思い出していた。
まだ、ここにいて。
まだ、ここですべきことがある。

俺は『タンクマン』
『さざん』て女を知らないか?

